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    「うん、行くよ。――だが、夕方でいゝだらう」

    「あゝ、高間さんの奥さん。――さうですね」

    「いや、さういふことは人によつてはあるんだよ」

    練吉は一人で感心し、それでも足りないと見えて、房一に呼びかけた。

    「それぢや、向ふの座敷へ行つて少し休みませうか」

    喜作の方でも、房一の来るのを認め、

    一人前の医者になるといふことは、何等の学歴もなく又資もとでもなかつた房一にとつては困難をきはめた仕事であり、それだけに心の全部を惹きつけていたものだつたが、今その峠に達してみると、更に前方に見えて来たいくつかの峠が彼の新しい野心を惹きはじめていた。その野心の目的といふものも、彼が東京の市内で散見することのあつた大病院の院長とか、或ひは病理学研究の名声赫々たる博士とか、さういふ粗雑なものにすぎなかつたが、それは名声が彼にとつて魅力があり、院長の威厳が彼に好もしく思はれたのではなく何かしら内部に溢れる野気が単にさういふ粗雑な形の中にその吐け口を見つけようとしたのであつた。

    「まあ、葉書でざつと町内に出しときましたがね」

    「あのう、笹井へ往診がございますが」

    盛子のお腹では、もう胎動がはじまつていた。

    「いや、私はすぐこの近くで医者をしとる、高間といふ者ですが」

    「どういふことでせうね、まあ!」

    「それあきまつてる、猟銃だもの」

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