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    「え、何だつて、徒歩てくで通るかつて?」

    「おれはまだ一本立ちの医者といふわけにはいかない」

    この家はこの娘のためになんとなく幸福そうに見える。一群の鶏も、数匹の白兎も、ダリヤの根方で舌を出している赤犬に至るまで。

    それは初めて口に出す言葉だつた。

    我々はそれから「き」の字橋まで口をきかずに歩いて行ゆきました。……

    「はあ、それは――」

    房一は話を変へた。

    喜作の方でも、房一の来るのを認め、

    「こんなところで初対面のご挨拶をしようとは思ひがけなかつたですね。――いや、初対面といふわけでもないんですな」

    「うん、今帰るところだ」

    彼の現実的に鋭い頭が働きをとめたわけではなかつた。又、あの身うちから溢れるやうに頭を持上げて来る野気を失つたわけでもない。それらはたゞ、急がば廻れといふ風にどつかりと彼の中に腰を下し、緩漫な暢のびやかな四囲の空気と調子を合せることを覚えこんだのである。もともと彼の野心といふものには格別はつきりした目標があつたのではない。漠然とした、無意識のうちに魂の孕はらむ夢といつた風なものだつた。が、今やその魂はどうにか方向を見つけ、その形づくらうと欲しているものを予感し、穏かに、着実になつた、といふやうに見えた。

    河原の端にある高い築堤の上で、白い割烹着かつぽうぎを着た女が、口に手をあてて何か叫んでいた。

    房一はいくらかつんぼの道平の耳に口を寄せて、大声で云つた。

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