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    云ひながら、道平はこれ又大いに気にかけていたことがあつさり片づけられてしまつたので、いくらか不服でもあり、手持無沙汰でもあるといつた様子だつた。

    「それぢや、向ふの座敷へ行つて少し休みませうか」

    それは、開業当時のあの身体が自然と弾はずんで来るやうな、患者に向ふと必要以上に診察したり、相手が求める以上にくはしい説明を長々と熱心に云つて聞かせたり、忙しげに薬局と診察室の間を往来しながら待つている人達に声をかけたり、さういふ房一の活気にみちた様子が見る人ごとに快い気持を惹き起させた、そんな張り切つた頃にくらべると、今はまるで時間が急にその歩みをとめて、のろのろと動いているやうに感じられた。

    「あゝ、さうか。あゝ、さうか」

    「や、さうでしたか。それは――」と、鬼倉は目に見えて和やはらいだ。

    徳次は自分のことのやうに熱心に路順を考へた。

    「なにしろこんな狭い田舎ぢやから、何事もねつうやる。それをやらんと後がうるさい。自然評判を落すといふことも起るかな」

    「鬼倉ちふのはきさまかと云ふんだよ。あんまり、この近所の者をいためてもらひますまい」

    どこかで、「営林署だ」といふ声が聞えた。そして、黒い人影は左手へ向けてぞろぞろと走つて行つた。何か叫び声のやうなものがその方で起つていた。

    「大きいとも、こんなのを見たのは久し振りだ」

    房一は刃物で突く恰好をしてみせた。

    「本当も本当でないもありやしませんよ。財産譲渡無効、その返還を請求したのだよ」

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