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「それからね」
と、練吉は、彼等のわきにさつきから立つていた今泉に向つて、揶揄やゆするやうに訊いた。どういふものか、今泉の紙衣裳はちつとも痛んでいなかつた。これといふ皺もついていなかつたし、木沓さへ完全であつた。冠をつけ、まだ笏を心持構へた恰好で、こんなに皆が疲れ切つた様子をしているにかゝはらず、今泉だけはその稍冷い感じのする四角な顎を生き生きとさせ、あのつまみ立てたやうな鼻髭さへ床屋から出て来たばかりのやうだつた。
「はあ、なるほど」
閑静で温泉もあるという家は売家だから住めない。貸家の方はたいがい山の上の温泉のない家で、ぜひ住んでくれないかと云ってきた空別荘も、景勝閑静な山荘であったが、温泉がなかった。
と、房一が声をかけた。
すると、間もなく診察室の方から急ぎ足で出て来た房一は、道平を見るなり、
「昨日、君とこの奥さんがバスに乗るところを見かけたが、――」
道平が口をうごかせるまでには随分手まどつた。
やうやく三十に手が届いたばかりだが、苦労したのとその無骨な外貌のために年齢よりは四つ五つ老けて見える。がつしりと人並外れて幅広い肩はむくれ上るやうに肉が盛り上つて、何だか猪首のやうな印象を与へた。
「玄関の手入れをどうしようかと云ふのですよ」
と生返事をしながら、大工の口にした高間医院といふ名前が耳新しく響いたので、房一は思はず微笑した。
「今、あんたの便をしらべてみたがね」
「あなたは御存知ないんですかね」
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