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    その次にふり向いたとき、果はたせるかな、殆ど目の前の対岸から、はつきりと彼の方を向き、ためらひながら何か云ひたげにしているやうな相手の顔を見た。それは徳次の幼友達であり、彼の兄貴株でもあれば大将株でもあつた、そして今は彼なんかには傍へもよりつけないやうに感じられるあの「医師高間房一氏」であつた。

    一座はしづまり返つていた。何か緊迫した気配があつた。――とにかく、それは予定の中には入つていなかつた。こんな風に突然誰かが立上り、荒々しい声を張り上げ、何を云ひ出すか判らないのにぢつと膝をついて聞いていなければならぬとは!

    「さやうでござりますか」

    「うん」

    房一は熱心に愛想よく椅子をすゝめた。

    「はあ、それは――」

    「ふむ、さうか」

    これは房一が河原町に帰つて以来、はじめて感じたものだつた。すでに、路上から徳次の姿を見つけたとき、房一はこの男をすつかり忘れていたのを後悔していた。

    「何だらう?」

    と、小谷は人差指と中指を二本突き出して見せて、

    房一はさつきから自然と聞いてはいたが、事は初耳だつた。

    とにかく、それは遠い向ふで起つていることだつた。対岸の火事を見物するやうなものだつた。

    「先生、どうしなさる?着て行きますかい」

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