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「ふうん。ひどい奴だねえ」
「――?」
「ですが、何とも手のつけやうがない」
と、彼は思ひ出したやうに房一の顔をのぞきこんだ。それは、いつか道平を診察しての帰り路で、「あれだね、君は見かけによらない親思ひなんだね!」と叫んだ時とそつくりな感嘆をまじへた親しさといつた色が閃いていた。
「高間さん、ひとつ何とかして引上げさせて下さい。このまゝでは――」
鍵屋の隠居神原直造は老来なほ矍鑠と云つた様子だつた。
徳次はきまり悪げに、しかし、又あのきよろりとした眼つきにかへりながら云つた。
徳次は人の好い、いかにもさう信じこんだやうな眼で二人を眺めた。
その苦痛を天城先生に訴えたら、洗眼器をかして下さった。入浴しながら、これを用いて、冷水で目を洗う。これを三分ぐらいやって、目をとじて、三十分、四十分、湯につかって、茫々去来するままにまかせておくのである。眼の疲れは急速に去った。目に水をそそいでから、ヌル湯にながく、ながく、ひたるということは、目の疲れとは別に、頭の疲れを払うためにもキキメがあるようだ。また入浴前に歯をみがいておくことも、いくらか入浴の頭に及ぼす効果を助けるようだ。
「いや、危険はまづない見込だ。だが、何と云つたらいゝか――」
と生返事をしながら、大工の口にした高間医院といふ名前が耳新しく響いたので、房一は思はず微笑した。
答へながら、房一は少からず面喰つていた。声をかけられるその瞬間まで、彼は酒造家の相沢を何となくでつぷり肥つて、木綿縞の袷あはせの袖口から肉づきのいゝ手首を喰はみ出させた、紺の前掛でもした男を想像していたのだつた。それが乗馬ズボンをはいて現れようとは――。
「いや別に忙しいこともありませんですよ」
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