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房一は微笑した。――つい半月ほど前、房一には初めてだつたが、郡の医師会が隣町であつたので、練吉と二人づれで出席した。その晩の宴会で、練吉は酒癖の悪い所を見せた。或る医者と練吉との間には、房一には判らない感情的ないきさつがあるらしく、飲んでいるうちに練吉は突然口論をはじめ、つかみ合ひになりかゝつた。房一は練吉の留役だつた。そして、まだしきりに興奮して、「やい」とか「山梨の野郎、出て来い」と思ひ出したやうに怒鳴る練吉の腕をしつかりと抱きこんで旅館まで連れかへり、水をほしがつたり又その上にのみたがつたりする練吉を押へつけるやうにして寝かしたのだつた。
「ふむ、毛嫌ひされて、孫ができてからやつとこさ婿養子になつたんだからね。――しかし、今ぢや正当な相続人だから、喜作さんに分けた分も自分の物だといふ理窟なんだね」
「芋の子」といふのが房一につけられた前からの綽名あだなであつた。それは小さく円く肥つた彼の身体の感じをよく現はしていたが、今ではそれを口にする人々の間に、或る納得しがたい性質、種族の異つた感じ、さういふ意味をいつとなく感じさせて来た。
今度はかるく甘えた、羽毛でくすぐるやうな調子があつた。房一はざぶりと水を顔にぶつかけただけで立上つた。
と訊いた。
鬼倉は低い声で、はじめてぢつと相手を見た。が、それつきりだつた。動きもしない。徳次は何故ともなく一寸ひるんだ。が、又、
「いや、いや」
答へながら、彼は紅くなつていた。
と、云つた。
その何番はわたしの隣室で、当分お客を入れないといったのも無理はない。そこは幽霊(?)に貸切りになっているらしい。宿へ帰ると、私はすぐに隣座敷をのぞきに行った。夏のことであるが、人のいない座敷の障子は閉めてある。その障子をあけて窺うかがったが、別に眼につくような異状もなかった。
が、ひどく不機嫌になつた時にはこの円味が消えてしまひ、あのどぎつい部分々々がばらばらに突出し一層強くなるやうに感じられる瞬間がある。それは理由なく盛子を恐怖させるものであつた。
「大きいやつだねえ」
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