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    だが、このはてしのない遠慮深さは気持の悪いものではなかつた。

    疲労したあまり不機嫌になつた大石練吉は、手荒く疳性かんしやうに衣裳をくるくると巻きながらいつもよりも激しくその切れ目をぱちぱちさせて云つた。

    「いや、人目がなきあそれどころぢや済まんでせう」

    「いや、どうも。恐縮です」

    「何しに来た!」

    房一は怒つたやうな嘲あざけるやうな調子であつた。その顔は何故か黒ずんで見えた。そして、目がぎらついていた。

    「さうです。――どうかなさつたかね」

    老父の道平が卒倒した今はちやうど房一の忙しい時期だつた。と云ふのは、彼の患者の大部分を占めている農夫達は農閑期に入ると、それまでがまんをしていたために急に病気になつたり、ぶり返したりするのであつた。道平はここ三四日の間が危険期だつた。房一は殆どつき切りで、間には何度も家の方へ来る患者の診察にも帰らねばならなかつた。

    「まあ、のみなさい」

    男は眼を閉ぢた。何も答へなかつた。

    「いや、高間さんは大漁ですがね。わたしの方はさつぱり駄目ですよ」

    「何でもないぢやないかね、君から聞いたとほりだ。心配することはないと思ふな」

    房一は立ち上つた。すると、着古しのワイシャツから下はズボンなしの毛むじやらな肥つた円つこい肉のついた脚がによつきりと出た。さつき河の中に入つたときに、ズボン下を脱いでしまつたのだ。

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