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    盛子は時々半ば無意識に呟いた。

    房一は傷を調べにかゝつた。後頭部にもあつた。身体にへばりついたシャツをはぎとると、背部に最もひどい傷があつた、それは紛まがふところのない刃物による刺傷だつた。新しい血がはぎとられたシャツの下から、瞬またゝく間にふき出し、滴したゝり落ちた。

    房一が声をかけて回転椅子を押しやると、

    と、練吉はわざとらしく顔をしかめてみせた。

    彼は男の顔を蔽つている手拭をとりのけながら云つた。

    その時、道平がのつこりと診察室に上つて来た。やはり尻はしよりの下から真黒い両脚を円出まるだしにしたまゝで。房一が考へこんでいるのを見ると邪魔をしてはいけないとでも思つたらしく、そのまゝゆつくり診察室の中を見まはして、何か口のあたりをもぐもぐさせた。それから、医療器具棚に近づくと、そのうるんだはつきりした眼で熱心に中をのぞきこんだ。そして又、口のあたりをもぐもぐさせた。それはこんな風に云つているやうであつた。

    紛まがふことなく、それは神原喜作だつた。

    「なに、ろくでもない用事で帰つたもんですから、どこへも失礼していたんです」

    「あゝ、よからう。大賛成ですよ」

    と、房一はひとり言を云つた。

    口ごもつて、

    房一は椅子から立ち上つた。

    「いや、危険はまづない見込だ。だが、何と云つたらいゝか――」

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