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    「もうこんなに暗くなつているのにね、何してるんでせう」

    それから、房一は歩きながら漠然とした沈思に落ちた。

    「それでは、又あらためて伺ひます」

    「別に何日からでもないんです。今日からでも――」

    「ほう、いつから」

    このポインタアの雑種は、房一の往診にはどこへでもついて来た。いゝ路づれだつた。

    神原喜作は、殊に自分が最初に口火を切つた責任者だといふ自覚があるらしく、あのづぶ濡れになつた下半身がいつのまにか生乾きになり、寒さのために硬はゞつた裾をばくばくさせ、方々を歩きまはつて説いた。練吉はその間、一種異様な緊張さを現していた。彼は、ごくたまに目瞬きをしていたが、顔はかつて見せたこともないやうな生真面目さで蔽はれ、時々さつと青ざめ、焚火の前に来ると俄かに紅らみ、絶えず房一の傍から離れなかつた。

    「さうかね、梨地へ行くんなら、やつぱりこゝを渡つた方が近道だ。井出下の渡しはもうないからね」

    が、登り切つた所で、ふりかへつて盛子を待つた。そして、何となく様子のちがつたゆつくりさで登つて来る盛子の、上うは目になつた、意味ありげに笑つている顔を見た。

    今泉は調子づいた。

    「よし。今行く」

    「あゝ、よからう。大賛成ですよ」

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