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盛子は、歯切れのいゝピツと語尾の跳ね上るやうな調子で、愛想笑ひをしながら小谷に訊いた。
「いや、鳴つた。出張所の鐘がたしかに鳴つていた」
「うん、何かア」
「あら、ほんとうに沢山とれたんですね」
「ふむ、さうか」
道平はまるで大きな輪がゆつくり廻つていて、その一点の結び目が眼の前に現はれたときにやつと口を開くかのやうであつた。
富田は房一に声をかけて彼のために席を明けながら、つづけて
その当時は差したることでもないように思っていたが、翌年の春になっても痛みが本当に去らない。それが打身のようになって、暑さ寒さに崇たたられては困るというので、支配頭の許可を得て、箱根の温泉で一ヵ月ばかり療養することになったのである。旗本といっても小身しょうしんであるから、伊助という仲間ちゅうげんひとりを連れて出た。
「あゝ、さうか。ふうん」
「いや、まだ」
とにかく快適に入っていられるのだから、体温よりちょッと高い目の三十七八度ぐらいだろうときめていたが、温度計を買ってきて測ってみたら、三十四度五分であった。もっとも、私の平熱は三十五度である。胃に冷感をうけるのは、やっぱり体温よりも低いせいだな、という当然なことが、その時になって、はじめて納得できた始末だが、体温と同じ水温なら入浴は快適だという結論も得たのである。
房一の老父、道平が二三日前に倒れたのだつた。そして、今、練吉に対診を求めて来たのである。
荒々しい鮎の走りが竿から腕に、腕から身体の隅々まで伝はつて、それは彼の胸いつぱいに快い感動をひき起した。糸をひきよせるにしたがつて、二つの鮎のひらめきもつれる形が見えた。この二つの生き物は、まるでその持つ力以上の力といふやうなものに駆かられている風に、走り、浮き、旋回し、沈みしつゞけていた。手早く網ですくふ。パシヤパシヤ水が跳ねて、獲物は房一の手の中で強くビクビクと動きやまない。追鮎はまだ元気で、背の色も濃い。ふたゝびそいつを放すと、追鮎は又以前よりもはげしく流れの中央に向つて走り出す。まだすつかりさめ切らない興奮の快さに、ぢつと竿を見まもつたまゝ何か忘れたやうになつていると、やがて又あの強い引きがいきなり彼の腕を胸を荒々しくよびさます。
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