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    「往診?ふむ、ふむ」

    「いゝえ、なんの。おれんとこへなんか。――あんたは忙しい身だもの」

    彼の妻の茂子は昨日実家へ帰つたばかりで、この家にはいないのである。

    「何分ごらんの通りの未熟者でして――」

    紛まがふことなく、それは神原喜作だつた。

    「おい」と盛子を呼ぶ声がした。

    「なに?競馬のこと?」

    と、房一は急いで頼んだ。加藤巡査は一瞬、不安な面持をした。が、房一の態度が決然としていたのと、急策としてはそれより他にないことも明かだつたから、直ちに承諾を与へた。

    「やつぱり、あんただつた」

    河原の端にある高い築堤の上で、白い割烹着かつぽうぎを着た女が、口に手をあてて何か叫んでいた。

    「鬼倉といふのは女を二人置いとるさうぢやないか」

    温泉は街道から幾折れかの石段で溪ぎわまで下りて行かなければならなかった。街道もそこまでは乗合自動車がやって来た。溪もそこまでは――というとすこし比較が可笑おかしくなるが――鮎が上って来た。そしてその乗合自動車のやって来る起点は、ちょうどまたこの溪の下流のK川が半町ほどの幅になって流れているこの半島の入口の温泉地なのだった。

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