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家督を継いだ文太郎が間もなく酒造業をやめた時に、直造は少からず不満だつた。文太郎は種々の理由から説得した。が、最大の理由は法学士だつた文太郎が帳付よりも地方政治に興味を持つていたことにあるらしい。果して、文太郎の濫費のために一時は不動産の大半が銀行担保に入つたことがある。直造は不機嫌だつた。しかし、欧洲大戦が始つて以来の好景気が鍵屋の財政を持ち直しはじめていた。
「どうも遅くなりまして――」
「や、さうでしたか。それは――」と、鬼倉は目に見えて和やはらいだ。
黒い影はぴよこりとお辞儀をした。それから台所から射す光りの中に全身を現すと、それを眩しがつているとも照れたとも見える表情を浮べながら近づいた。
真黒い顔の男が傍によつて訊いた。
しきりにすゝめられたが、道平は縁側に出て、いつのまにか下していた着物の裾を又尻からげにかゝつていた。頑固といふほどではないが、その様子には円味のある手ごはさと云つた風なものが感じられた。
正文は顎をつき出しては一寸笑つて、ふむ、ふむ、とひとりでうなづいていた。
まだぎこちなく坐つて伏目に固くなつている堂本の様子から、自分が誰かといふことは判つてはいるのだなと思つた房一は、
練吉は永い間黙つていた。それから、いかにもいやいやな調子で、
と、小谷は目を丸くした。欲しさうだつた。すると、逸早く、
「ふうん、潰れるだらうな」
と、彼は恐しく手まどつて答へた。
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