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と、鬼倉はすつかり他意のない様子で答へた。
「もう一人後から来るかもしれませんが、そしたらよろしく頼んます」
「そうしてそのお松と言う女は?」
「ちつとも知りませんでしたよ」
「どこの帰りかね」
「どうしたんですの?何かあつたんですか」
「え?いや、居ましたよ、居ましたけど、別に――」
「いゝかね。あんたの身体はどこも悪くない」
と、思はず房一の微笑に釣りこまれて、練吉は気がるな笑顔になつた。いつのまにか、かた苦しい「わたし」から「僕」といふ云ひ方になつたのも気づかないで。
だが、あれだけの人数を僅か三四十分の間にどうして引上げさせたものだらう。本署から自動車で署長以下がやつて来るといふ噂も効果があつたにちがひないが、房一はじめ、神原喜作も練吉も小谷まで、それから後から馳けつけて来た四五人の主だつた連中も声をからして説得してまはつたので、又、半鐘が鳴つてからもう三時間近くもたつていたので恐しく冷えこんで来た夜気は焚火にあたつている側だけが熱いばかりで、背中がぞくぞくするほどだつたから、容易に引上げなかつた人達もさすがに疲労し、興奮がさめ、三々五々散らばつて行つたのである。
「どこか悪いですかな」
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