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「あの人はつまりこんな風な人なんだわ。こんな風に――」
あのことだな、と房一は思つた。訊いてどうかな、とは感じたが、相手があまりさつぱりしているので、
「まあ、とにかく、御迷惑かもしれないが、一度御足労を願ひたいと思つてね」
房一の帰るのを見送つた正文は、玄関から居間へひき返しかけたが、ふと考へなほして診察所の方へ行つた。すると、そこの廻転椅子の上に、行儀わるくずり落ちさうに腰かけて、両脚を床の上に思ひきりのばした恰好の練吉が、新聞紙を両手で顔の上に持ち上げながら読んでいるのを見つけた。
徳次は、その云ひ慣れない「往診」といふ言葉を口の中で物をころがすときのやうに珍しげに云つて見た。何か特別な響きがあつた。その時、急に彼は房一が医者だといふことを思ひ出していた。
「いや」と、喜作は相変らずきつぱりと、煩うるさがりもせず答へた。
例の奉祝行列のお終ひに小谷から慰労宴をやらうと云はれたときに、房一は道平が練吉の診察を受けたまゝになつているのを気にかけていたことを思ひ出し、練吉をも加へて小谷と二人を招待しようと云つたのだが、小谷はそれはそれ、これはこれと云つて聞き入れなかつたので、改めて今二人を料亭染田屋に招いたのであつた。
房一はまだ考へ深さうにしていた。
「今日はえらい早いお帰りだね」
これはちっとも可笑おかしくない!彼ら二人は実にいい夫婦なのである。
答へながら、他人ごとのやうにずばずば何でも話してしまふ喜作の飾り気のなさに、驚いていた。
「あのね、何ですよ――」
「だいぶ、様子が変りましたな」
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