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    と云つた。

    ――もともと、練吉は房一から対診を頼まれたことさへ少からず意外だつた。これが若し、自分の場合だつたら、それは弱味を見せるといふことだつた。彼はまだ、房一に対診を頼むやうなことはつひぞ考へたことはなかつたし、これから先だつてそんなことを考へつきはしないだらうと云ふより、練吉には漠然と、房一を自分と同じ医者だと見る気にはいまだになれなかつたのである。

    房一には連れが二人あつた。

    「さうさう、先だつてはお加減がわるかつたさうですが――」

    と訊いた。

    「徳さん。追鮎は君のといつしよに活かしといてもらはうか――どつこいしよ」

    「まだ?ふん!よせ、よせ。阿呆らしい」

    「さうかよ。おれは又、河原町を通るんだとばつかり思つた」

    房一はふりかへつた。

    「相手は誰です?こゝの御隠居ですかい」

    と、練吉は、彼等のわきにさつきから立つていた今泉に向つて、揶揄やゆするやうに訊いた。どういふものか、今泉の紙衣裳はちつとも痛んでいなかつた。これといふ皺もついていなかつたし、木沓さへ完全であつた。冠をつけ、まだ笏を心持構へた恰好で、こんなに皆が疲れ切つた様子をしているにかゝはらず、今泉だけはその稍冷い感じのする四角な顎を生き生きとさせ、あのつまみ立てたやうな鼻髭さへ床屋から出て来たばかりのやうだつた。

    今泉は調子づいた。

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