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    「どうしたい、君はその恰好をまだ見せたい気かい」

    それは言葉にするとこんな風なものであつた。

    彼はそれを云ひに来たのだつた。

    「へえ。――ズブツとね」

    「ですが、何とも手のつけやうがない」

    と、盛子が傍から又さつきのをかしさを思ひ出したらしく、そつと注意した。

    「いゝ恰好で!」

    感心したやうに呟くと、房一はくるりと向ふむきになつて歩き出した。

    これはすばらしい銅板画のモテイイフである。黙々とした茅屋ぼうおくの黒い影。銀色に浮かび出ている竹藪の闇。それだけ。わけもなく簡単な黒と白のイメイジである。しかしなんという言いあらわしがたい感情に包まれた風景か。その銅板画にはここに人が棲んでいる。戸を鎖し眠りに入っている。星空の下に、闇黒のなかに。彼らはなにも知らない。この星空も、この闇黒も。虚無から彼らを衛まもっているのは家である。その忍苦の表情を見よ。彼は虚無に対抗している。重圧する畏怖いふの下に、黙々と憐れな人間の意図を衛っている。

    「おとうちやん、どこへ行くの」

    「おれはまだ一本立ちの医者といふわけにはいかない」

    船体を洗ひ終つて、これから雑具にかゝらうとしたときだつた。彼はふと対岸に目をやつた。物音がしたわけでもなければ、気配を感じたのでもない。しかるに、そこの路の曲り角には、まるで符合したやうにその時きらきら光る真新しい自転車に乗つた男が現れたところだつた。

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